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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)7377号 判決 1966年7月26日

債権者 鈴木賢

債務者 野村安雄

主文

当庁昭和四一年(ヨ)第二八七七号債権仮差押申請事件について、当裁判所が同年四月一四日なした仮差押決定はこれを取消す。

債権者の本件仮処分申請を却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。

この判決は第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

第一  債権者訴訟代理人は、主文第一項掲記の仮処分決定を認可する旨の判決を求め、その原因として次のとおり述べた。

一、債務者は左記の約束手形一通を振出した。

金額 七六万六五〇〇円

満期 昭和四一年一月二〇日

支払地 東京都世田谷区

支払場所 城南信用金庫奥沢支店

振出地 川崎市

振出日 昭和四〇年一二月三一日

受取人 債権者

二、右手形には、次の裏書記載がある。

第一裏書人 債権者

その被裏書人 白地

第二裏書人 武輪水産株式会社

その被裏書人 株式会社富士銀行

(但し取立委任)

三、第二裏書人は、富士銀行に取立委任をなし、昭和四一年一月二〇日支払場所に支払いのため呈示したが、債務不履行を理由として、その支払いを拒絶された。(なお債務者は銀行取引停止処分を免れるための予託金をも取下げた。)

四、債務者は、東京都庁に勤務する公務員であるが、その給料債権以外に資産とてなく、本件手形債権を保全するためには、右給料債権を仮差押する必要がある。

第二  債務者訴訟代理人は、主文第一ないし第三項同旨の判決および第一項につき仮執行の宣言を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、第一項は否認する。

二、第二ないし第三項はいずれも未知。

三、第四項のうち債務者が都庁に勤務することは認めるが、その余の主張は争う。

第三  疎明<省略>

理由

一、まず本件手形の振出しの点について判断するに、甲第一号証の振出人欄には債務者の記名があり、その下に野母の印影が押捺されていることは明らかである。しかしそれが債務者の所持する印形によるものであることは、本件全証拠によっても疎明されないし、まして右押印が債務者の意思に基づくことを疎明する証拠はない。かえって右甲第一号証の右印影に、成立に争いのない乙第五、第六号証、証人野村正孝、磯目博志の各証言および債務者本人尋問の結果を総合すると、右正孝は、城南信用金庫に債務者名で当座預金口座を開設し同人の承認なしにその名義で昭和三八年末ごろからしばしば手形を振出していたこと、それに使用した印影は正孝名義で登録されていること、本件手形もその一つで、前記振出人欄の印影も右印影を押捺したものであることが認められる。

結局債務者が本件手形を振出したとの債権者の主張は疎明されない。

二、そうすると本件仮差押申請は、その被保全権利につき疎明がないことになり且つ保証をもってこれに代えるのも適当とは認められない。従ってその余の債権者の主張につき判断するまでもなく、本件申請は失当と認められるから、主文掲記の仮差押決定はこれを取消して、本件申請を却下することとし<以下省略>。

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